いつかのお風呂〜茅ヶ崎市が導入した「循環式お風呂システム」を考える〜
またひとつ、茅ヶ崎市で「新しい備え」が導入されました。
災害時に使えるという「循環式お風呂」。
総額8391万円のこの設備について、少しだけ立ち止まって考えてみたいと思います。
市民の皆さんにとって、それは“安心”になるのか、
それとも――「いつかのお風呂」のままなのか。
Q1:茅ヶ崎市が購入した“循環式お風呂”とは?
茅ヶ崎市議会で災害用の「循環式お風呂システム」の入札案件が採択されました。
総額は8391万円。
導入の目的は、避難所において入浴環境を整えるためとされています。
この装備は、バス型の設備に大きな浴槽を設け、
湯を循環させて複数人が順番に入浴できるしくみ。
けれども――その“安心の備え”は、本当に市民の声に基づいたものでしょうか?
Q2:このお風呂、“誰のための備え”になっていますか?
災害時の備えは、「誰がどう使うか」を丁寧に検討しなければ意味がありません。
特に今は、国際的な人道支援基準「スフィア基準」においても、
障がいのある方、性的マイノリティ(LGBTQ+)、高齢者、乳がん術後の方など、
多様な立場の人にとって“使える設計”であることが第一条件とされています。
その観点から、今回茅ヶ崎市が導入した循環式お風呂システムには、
少なくとも以下の5つの大きな疑問があります:
①合理的配慮がなされているか?
被災地の女性には「シャワー」に対する声のほうがよく聞くのですけどね。
湯船に浸かる形式は、同性であっても他人と同じ空間で裸になることに抵抗のある方、
感覚過敏を伴う発達障害者、LGBTQ+の方、車椅子利用者などにとって、
心理的・身体的に大きなバリアとなるためです。
また、女性には「足湯」が好評だったと聞きます。
②過去の事故・課題から学んだのか?
実は、循環式お風呂の運用により、北海道胆振東部地震の際、
溺死事件が起きています。自衛隊が設営したお風呂での温度管理ミスや
トラブルも記録されています。
残念なことに「災害関連死」として認定されなかった…無念だと思います。
茅ヶ崎市では、その点を検証したのでしょうか。
③運用できる体制は本当にあるのか?
この設備には、以下のような要員が必要です:
〇危険物取扱乙4の有資格者
〇ボイラー技士または同等の専門知識を持つ人材
〇給湯・設営・衛生管理・安全誘導を行うスタッフ
これらの人員を災害直後に確保するには、訓練が必要です。
同モデルを扱う自衛隊・霞ヶ浦駐屯地の第103補給大隊では、訓練を重ねています。
茅ヶ崎市では 運用できる人材確保や訓練体制の整備について
プランニングしているのでしょうか?
④フェイズについて考慮したか?
入浴を必要とするフェイズは、発災から大分後になります。
インフラがある程度整うことが必要なのですが…
シャワーのほうが、長いフェイズで使えたのではないかなぁ、
それから、移動設置が楽なのになあ…と思うんですよね。
⑤感染予防の視点は考慮されたか?
複数人が同じ湯を循環して使う構造上、衛生面のリスクは避けられません。
避難所では、生理中・下着不足・感染症流行といった要因が重なりやすく、
「きれいに見えるけれど、実は危険な湯船」になる可能性もあります。
災害時はとくに衛生対策が命に直結するため、
入浴上のまわりの衛生環境を整える必要があります。
Q3:議会は検討できたの?
この導入が議会で可決された背景には、市からの提案と説明があります。
けれども――
〇多様な市民の声に関するヒアリング
〇運用の現実性
〇他自治体の事例比較や失敗の教訓
〇シャワー方式との比較検討やコスト効果の分析
〇北海道胆振東地震の溺死事例
これらを説明されたうえで、きちんと検討できたのでしょうか‥‥
Q4:このお風呂、ほんとうに“使える日”は来るの?
「災害時にお風呂に入れること」自体を否定しているわけではありません。
被災地で入浴すると「まるで部品交換したみたいだ!」と感動します。
けれども、市税 8391万円を投じて、
本当に、市の備品に必要だったのだろうか?と思うのです。
WOTAのシャワーだったら、いくつ買えたかなぁ?
または、リースだったら、もっと備えられたなぁ、とか。
本当に、動かせるのかね?とか。
「いつか」本当に使われ、必要な人に届く日が来ることを願っています。
願わくば、市の防災備蓄庫に眠ったまま、
「いつか」を待ち続ける「眠り姫」になりませんように。
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